謎多き中世の遺跡、まんだら堂やぐら群を見に行こう!
近ごろ、古都・鎌倉のちょっとミステリアスな場所を訪れるのにハマっています。心霊スポットではなく、あくまで「ミステリアスな場所」です。
ちなみに、私に霊感は一切ありません。ただの鎌倉好きのいち神奈川県民です。
お化けや幽霊は信じていないので、堺雅人さん主演の映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』を初めて観た時「鎌倉は人と魔物と幽霊が共存する街」という映画の設定について「いやぁ、現実の鎌倉と違いすぎやん」なんて思っていました。年中観光客でザワザワ混雑している土地に、魔物や幽霊なんているわけないじゃん。
そんな「お化けを信じない」私でしたが、子供の散歩がてら毎週のように鎌倉を訪れるうちに「鎌倉にはきっと何かある。何かいる。」と思うようになりました。
はっきりと霊的な体験をしたわけではありませんが、秋の日の夕方、鎌倉のとある場所を散歩した時に、なぜか強烈に「この場所では、写真を撮っちゃいけない」と感じたのです。その場所で写真を撮らなかっただけでなく、その日、道すがらスマホで撮影した写真はすべて削除しました。
それ以来、鎌倉のちょっと不思議な場所、ミステリアスな場所に行ってみるのが趣味のひとつになりました。今回行ってきた「まんだら堂やぐら群」も、そんな理由で訪れた場所です。この記事では、2020年秋の公開の際に、私・夫・息子(1歳)の親子3人でまんだら堂やぐら群へ行った時のことを紹介します。
●この記事は、2020年11月時点の情報です。
その数二千基以上!鎌倉の「やぐら」とは一体何なのか
鎌倉には、中世に掘られた四角い横穴「やぐら」がたくさんあります。お墓や宗教儀式の場として使われていました。埋もれているものを含めれば二千基以上あるとみられています。鎌倉の山は主に凝灰岩という軟質の岩でできているので、比較的堀りやすかったんだとか。
山に囲まれた地形で平地が貴重だったため、当時の鎌倉では、めちゃくちゃ身分が高い人でない限り、平地にお墓をつくることはできませんでした。そのため、普通の武士や僧侶は、崖に横穴を掘って埋葬されるようになりました。まんだら堂やぐら群のやぐらには、武士や僧侶、裕福な商工業者などが葬られていたと考えられています。
まんだら堂やぐら群は、150穴以上の存在が確認されている有数のやぐら群。これだけまとまった数の状態の良いやぐらを見ることのできる遺跡は鎌倉市内にも少なく、大変貴重です。保存管理の関係上、春(初夏)と秋だけの季節限定で公開されています。
正式な所在地は、鎌倉市ではなく、鎌倉市のお隣の逗子市です。鎌倉市と隣接する地区にあり、鎌倉駅・逗子駅のどちらから行っても所要時間はほとんど変わりません。
今回は、鎌倉駅前から京急バスに乗って行きました。所要時間はバス8分、バス停から徒歩10分。秘境っぽい遺跡なのに、実は鎌倉駅から気軽に行けちゃう場所にあるんです。
鎌倉駅前からハイキング客とともにバスへ
「まんだら堂やぐら群」へ鎌倉駅前からバスで向かう場合、東口3番のりばから「緑ヶ丘入口」行きに乗車します。乗り場の位置は、三菱UFJ銀行の前あたりです。バスは鎌倉駅の南東にある大町エリアを通って、逗子方面へ。10分ほどで目的地のバス停「緑ヶ丘入口」に到着です。
この日のまんだら堂やぐら群の公開は10時〜16時でしたが、「なるべく朝のうちに見学したい」と思い、朝9時前に鎌倉駅を出発しました。陽が傾いてからお墓に行くのって、なんだか気が進まないですもん。
バスの車内には山歩き装備のマダムたちがちらほら。どうやらまんだら堂やぐら群と同じエリアにある「名越切通(なごえきりとおし)」のハイキングが目的のようです。
「切通し(きりとおし)」とは、山を掘り割って造った道のこと。三方を山に囲まれた鎌倉は、敵襲を防ぐのに好都合な一方、物資の輸送や人の往来のために陸路が必要だったため、山を切り崩して道が通されました。
名越切通は、まさに「これこそが切通し!」という風情のある狭い古道で、観光地としても人気があります。
すぐそばには、心霊スポットとして有名なあのトンネルが・・・
「緑ヶ丘入口」のバス停を降り、ブルーの板張りの外壁がお洒落なラーメン屋さん「風麺(ふうめん)」の方向へ少し歩くと、まんだら堂やぐら群へと向かう階段が見えてきます。
この階段のそばには、超有名な心霊スポット「小坪トンネル」もあります。今回は立ち寄りませんでしたが。
階段の下には「まんだら堂やぐら群限定公開」と書かれた臨時の看板が出ていました。登り始めはコンクリートの立派な階段でしたが、次第に山道っぽい狭い階段に変わっていきました。両サイドには、大人の腰くらいの高さの雑草がボーボーに生えています。
「どこかで道を間違えた?」と不安を抱かずにはいられませんでしたが、一応、ところどころにまんだら堂や切通しの案内標識があるので、それを信じて登って行きました。
逗子市のホームページによると、「バス停から徒歩5分」ということでしたが、往路は登りだったこともあり、徒歩10分弱かかりました。息子(体重10キロ)は、夫が抱っこ紐で抱えて登りました。
山の中の階段は、落ち葉が降り積もっていて滑りやすいので、子連れ・赤ちゃん連れで行く方は十分注意してください。地元のファミリーと思しきご一行が、ビーチサンダル(げんべいかな?)でホイホイ登って行くのを見掛けましたが、普通の人は長ズボンと運動靴着用が望ましいかと思います。また、自動販売機など無いので、飲み物を忘れずに持っていきましょう。
意外と明るくにぎやかな場所だった
山道を登った末にたどり着いた「まんだら堂やぐら群」。暗くて物静かな場所を想像していたのですが、入口には運動会のようなテントが設置されており、ブルーのジャンパーを着た逗子市社会教育課のおじさまが数名。意外な「祭り感」にちょっと拍子抜けしてしまいました。見学客は、私たちを含め7組ほどいました。
見学は無料ですが、任意の寄付を受け付ける募金箱が設置されています。
テントでおじさまから立派なパンフレットを受け取り、まずは小高い場所からやぐらを見渡せる、展望スポットへ。この展望台、ちょうどまんだら堂やぐら群の方向に、背の高い雑草がモサモサ茂っているため、雑草越しのやぐらビューでした。ジャングルの探検隊になった気分。
初めて見る「まんだら堂やぐら群」は、うわさ通りジブリ映画を思わせる神聖な雰囲気でした。見方によっては、もののけ姫のこだまの森のようにも見えるし、ラピュタのお城のようにも見えます。
日陰でシダやコケに覆われてジメジメしているのを想像していましたが、秋だったためか、思い描いていたよりも乾燥気味で、緑が少なかったです。
展望台のあとは、平場に戻ってじっくりとやぐらを見学。写真でよく見かける正面側だけでなく、その裏手にもたくさんの横穴があります。やぐらの周りは植栽で仕切られていて、やぐらに入ったり触ったりすることはできません。
平場にはベンチや案内板なども設置されており、ちょっとした公園風に整備されています。うっそうとした山道の先に、こんな別天地が広がっていたのはとても意外でした。
やぐらの中にはたくさんの五輪塔が並べられています。この五輪塔は、のちの時代に動かされたものが多く、まんだら堂やぐら群が造られた中世そのままの姿、というわけではないそうです。とはいえ、五輪塔がやぐらの中にビッシリと並ぶ姿には、なんとも言えない迫力が感じられます。これを並べた人たちはいったいどういう思いだったのでしょう・・・
実は私、五輪塔に関してちょっと不気味な思い出があります。20年以上前のことなのですが、田舎の祖母の畑で、土の中から数組の五輪塔(正確に言うと、五輪塔を構成する石)が見つかったんです。
掘り出した石たちは、とりあえずその場に置いておいたのですが、数日後、なんとそっくり全部無くなってしまったんです。墓石どろぼうのしわざなのか、五輪塔が自ら歩いて出て行ったのか、行方は未だに分からないままです。
斬首された頭蓋骨や火葬場の跡も
まんだら堂やぐら群の付近では、切石を敷き並べた遺構と、斬首されたとみられるヒトの頭蓋骨1個が発掘されています。
訳あって処刑された身分の高い人を供養する目的の施設だったのかもしれません。ちなみに、逗子市役所のおじさまの話によると、この頭蓋骨の主は女性なんだとか。一体どんなストーリーが背景にあったのか気になります。(遺構はすでに埋め戻されており、見学はできません)
遺体を火葬したと思われる跡も複数見つかっています。ここで荼毘に付された人たちが、やぐらに葬られたのでしょうか。
日本では昔から、集落の外・街道沿いなどに、あの世とこの世の境い目があると考えられていました。村外れの道に六地蔵があるのもそんな理由からです(「となりのトトロ」で、迷子になったメイが道路沿いの六地蔵の横に座っているシーン、ありましたよね。)
鎌倉と三浦半島方面を結ぶ名越切通沿いのこの場所も、当時の人々にとって、あの世の入り口、境界として位置付けられていたのかもしれません。
山の中に響く、謎の機械音の正体とは
まんだら堂やぐら群は、写真付きの立派な案内板が設置されているだけでなく、逗子市役所のおじさまが、要所要所で解説をしてくれたので、興味深いお話を色々と聞くことができました。おじさまは、うちの息子(1歳)にも「何か音がするね〜、何だろうね〜?」とフレンドリーに話しかけてくれました。
私も気になっていたのですが、山の中の静かな場所のはずなのに、ゴウンゴウンと、巨大な換気扇のような音が聞こえるんです。それも、まるで工場がすぐ近くにあるかのような音量です。
私は思うわず、「これって何の音なんですか?」とおじさまに尋ねたのですが、おじさまは何故か無言でした。
帰りのバスを待っていると、バス停のそばにある「誠行社」という葬儀場から霊柩車が出てくるのが目に入りました。「もしや」と思い検索してみたのですが、ここ、火葬場併設の葬儀場でした。ゴウンゴウンという音は、火葬場から聞こえていたようです。おじさま、それならそうと言ってくれればいいのに。
しかし、中世から何百年経った今でも、この場所は変わらず葬送の地であり続けているんですね。さすが古都鎌倉、色々と奥深いです。小坪トンネルの怪談も、こういう事情に関連があるのかもしれません。
おわりに
いかがでしたでしょうか。まんだら堂やぐら群は、鎌倉駅・逗子駅の両方から、バスでアクセスが可能です。子連れでもぷらっと気軽に行けて、見応えがある場所なので、限定公開の時期にぜひ足を運んでみてください。
●2022年の公開期間は4月23日〜5月30日、10月22日〜12月12日の間の土・日・月・祝日のみ。時間は、10時〜16時(初夏)、10時〜15時(秋季)です。逗子市社会教育課のホームページをご確認のうえ、お出かけください。