小さな子供を連れていても、人力車に乗れる?
少しずつ秋らしくなってきた9月の半ば、1歳の息子と一緒に、鎌倉で観光人力車に乗ってみました。
今回乗せていただいたのは、この道37年目の大ベテラン、有風亭の青木登さんです。70歳を超えてなお現役、大人2人を乗せれば合計200キロにもなる人力車を引いて走るなんて、もはや鉄人です。
近年、日本各地の観光地で見かける人力車。子連れで乗ってみようにも「ベビーカーや荷物はどこに置いておくの?」とか「そもそも小さな子供でも乗せてもらえるの?」とか、気になることも多いですよね。
結論から言うと、心配無用、子連れで人力車で観光、超オススメです。これからの季節、七五三で着物を着る機会にもぴったりです。この記事では、鎌倉の子連れ人力車観光について詳しく紹介します。
●この記事は2020年9月時点での情報です。
有風亭・青木さんとは?
鎌倉で人力車といえば、鎌倉駅西口や小町通りで、元気いっぱいに客引きする「人力車男子」の姿を思い浮かぶ方も多いかと思います。
この人力車男子たちは、京都や浅草などの有名観光地で人力車業を営む、いわゆる大手の業者さん。アルバイトの方が多いそうです。鎌倉では2001年から営業している新参組なのだそうです。
一方の有風亭・青木さんは、1984年(昭和59年)から鎌倉で人力車を引いている、大大大ベテラン。鎌倉の品格を守るために、客引きは一切しない営業スタイルを貫いているそう。
小町通りに人力車を停め、客待ちする青木さんの姿を見かけたことがありますが、鎌倉の品格を守る云々より、むしろ青木さん自身が古都の風情を盛り立てる、美しい風景の一部となっていて、非常にかっこ良かったです。
青木さんは、観光だけでなく、婚礼の仕事もなさっています。鶴ヶ岡会館のホームページには、花嫁を乗せた俥を引く、青木さんの凛々しい写真が掲載されています。
小さな子供でも乗れるの?乗車中に荷物やベビーカーはどうするの?
今回利用したのは、予約制の貸切遊覧プラン12,000円(1時間)。この料金で大人2名まで乗車可能。料金は、20分、30分など、乗車時間によって変わります。
予約なしで乗れるプランもありますが、個人営業なので、事前予約がベターです。
一緒に乗った息子は1歳を過ぎたところで体重は10キロぐらい。私のひざの上に、横向きに抱っこして乗車。初めはビビって固まっていましたが、中盤からは楽しくなってきたのか、歌ったり、すれ違う人に手を振ったりとノリノリでした。
念のため、抱っこ紐も持参しましたが、思った以上に安定感ある乗り心地だったので、出番はありませんでした。
青木さんの熟練の梶棒さばきには隙がありませんし、当然の事ながら、どんなに速くても人間の駆け足スピードなので、普通に座っていれば振り落とされることはありません。
途中から息子は、私のひざから降りて、隣にちょこんと座るように。好奇心の塊なので乗り出して落ちることが無いよう、念のため両手でしっかりホールドしておきました。
青木さんによると、七五三のお参りや写真撮影で利用する方もいるのだとか。どうりで子供の扱いが上手なわけです。「3歳、5歳まではパパ・ママ・子供の親子3人乗せられるけれど、7歳はさすがに厳しい。」と笑っていました。
2人兄弟・姉妹なら、ママと子供2人の組み合わせで乗車するのも楽しそうです。その際はパパはカメラ係ですな。
乗車中にベビーカーをどこに置いておくか、予約の際に青木さんに相談したところ、若宮大路の商店で預かってもらえるよう、手配していただけました。このお店の前から乗車して、帰りも同じ場所で降ろしていただくことに。
ベビーカーは駅前の観光協会に有料で預けることもできますが、乗車場所で預かってもらったほうが、息子(体重10Kg)およびその関連物資を抱えて歩き回らずに済むので、結果的にとても助かりました。
荷物はバックパックと手提げ袋の計2つありましたが、座席の足元に置くことができました。
のんびり走るからこそ気付く、町の魅力
「どこか行きたいところはありますか?」と聞かれ、「鎌倉らしい、町並みがきれいな所」とオーダー。鶴岡八幡宮の東側のエリアを案内していただきました。
自動車1台通るのがやっとの道や、道の両側の生垣に手が届きそうな道など、人力車だからこそ入って行ける細い道を進んでいきます。
風情ある住宅街の中を巡りつつ、大佛次郎の旧茶亭や源頼朝の墓など、歴史スポットを訪問。基本的に降車はせず、乗ったままスマホで記念撮影して次へ進みます。もちろん青木さんの解説付き。
頼朝の墓のご近所には、2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主役・北条義時のお墓があります。「今のうちに見に行っておいたほうがいいですよ!」とのアドバイスをいただきました。ちなみに主演は小栗旬さんです。
そのほかにも、豆大福が美味しい老舗和菓子店や鎧塚シェフのお弟子さんが営む洋菓子店など、おすすめスポットを多数紹介していただきました。
私の場合、子連れで鎌倉の街を歩くと、目的地(主に甘味処)まで行くのに必死で、そこに到るまでの道のりを楽しむ余裕がありません。たま〜に、1人で出掛けると、今度は行きたい場所があり過ぎて、欲張って疲れてしまう。
人力車に乗って、人間の足の速さで、のんびり座ったままあちこち連れ回ってもらえると、町並みを眺めたり、季節の移ろいを感じたりといった、忘れていた心の余裕をいくばくか取り戻せたように感じました。
鎌倉という町の特性上、子供ウケしにくいシブい場所を巡るわけで、息子が退屈してぐずらないか心配しましたが、息子はそもそも人力車に乗ること自体が楽しくて仕方なかったようで、1時間問題なく(むしろ上機嫌で)、付き合ってくれました。
青木さんは鎌倉の超有名人
今回実際に乗車してみて気付いた、ベテラン俥夫・青木さんのすごいところを紹介すると、まず、非常に顔が広い。行く先々で、鎌倉市民から声を掛けられます。青木さん自身も、すれ違うお店の方などに積極的に声掛けをしていて、これは努力の賜物なのだと感じました。
極め付けは、段葛の二の鳥居の前で、青木さん、私、息子の3人で写真を撮ることになり、「シャッターは誰が押すんだろう」なんて思っていたら、たまたまその場を通りがかったショッピング帰りのご婦人が、青木さんのお知り合い。持っていた沢山のお買い物を地面に置いて、何枚も写真を撮ってくださりました。
正直、鎌倉から10キロも離れていないところに住む身としては、人力車に乗るのは、「いかにも観光客です」という感じがしてちょっと照れるなぁ、なんて思っていました。ですが、街の皆さんの青木さんへの反応がとても温かいので、乗っているこっちも「こんなに人気者の青木さんのお客になれて光栄だ」という気分になってきます。
人通りが多い小町通りや若宮大路をゆっくり進んで行くのは、さすがに気恥ずかしかったですが、道行く人に「あらぁ、可愛い赤ちゃんが乗ってるわ」なんて声を掛けられたりして、忘れられない良い思い出になりました。
さらに青木さんは、「実は一流ホテルマンなのでは?」と思ってしまうくらい、配慮がきめ細やか。乗車の際は、私たちが俥に乗り込んでから、青木さんがベビーカーを預けに行き、帰りは逆に、私たちが降りる前に、ベビーカーを俥のそばまで運んで来てくれました。おかげで一瞬たりとも、息子を抱っこしつつ、さらに荷物も抱えて・・・という状態にならずに済みました。
走行中も、段差などでガタつく場所では、必ず声掛けをしてくれます。歩行者や自動車への配慮も欠かしません。これだけきめ細やかな仕事ができる青木さんだからこそ、婚礼で和装の新郎新婦を乗せる仕事を長年任されているのだと思います。
また、意外に、というと失礼ですが、写真を撮るのがとても上手です。人力車に乗った状態で名所を背景に、私のiPhoneで撮ってくださるのですが、観光客で混雑する鶴岡八幡宮の前でも、写り込みも手ブレも無く、きれいな写真が撮れていました。撮影小道具の赤い番傘もあり、インスタ映え対策もバッチリです。
わが家では基本、私がカメラマン役なので、息子と私のツーショット写真が非常に少ないのを密かに悩んでいたため、今回青木さんに撮っていただいた写真は自分への良いお土産になりました。
おわりに
いかがでしたでしょうか。新型コロナの影響で、夏場の鎌倉の人出は平年に比べてとても少なかったものの、9月に入ってにぎわいを取り戻しつつあります。今回訪問した際も、八幡宮の前で子供たちの遠足の行列に遭遇し、青木さんも嬉しそうでした。これから秋のベストシーズンです。ぜひ人力車で普段とは違う鎌倉観光を楽しんでみてください。
参考文献:『人力車が案内する鎌倉』(「有風亭」青木登/光文社新書)
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